次世代研修会 田沢湖 乳頭温泉郷
乳頭温泉郷 旅日記 日本秘湯を守る会 次世代研修会

 秘湯の会の次世代研修会が秋田県・田沢湖にて開催されました。今回の目玉は、野口悦夫さんの講演会と玉川温泉と乳頭温泉/鶴の湯見学です。新潟からは上越新幹線・燕三条駅発、大宮駅乗り換え、秋田新幹線・田沢湖駅着、5時間の旅でした。秋田新幹線はとても新幹線が走るとは思えないような山奥も通ります。その渓谷美は秋の紅葉など素晴らしいのでは?と想像されました。今は雪解けでフキノトウが至るところに咲いているのを車窓から眺めました。半分は夢うつつで眺めていたのですが、前の席に顔なじみを見つけ目を覚ましました。群馬県・法師温泉の岡村くんでした。同い年ということもあり、ちょくちょく顔を会わせる彼です。久しぶりに元気な顔を見て嬉しくなりました。「秋田、寒いと思ってコート持ってきたんだけど全然さむくないね」とのこと。私も作務衣姿で出かけてきたのですが、寒かったら着ようとおもっていたトレーナーは不要だったようです。
 田沢湖駅からは本日の研修施設「ファミリーオ田沢湖」のマイクロバスが迎えにきてくれました。山梨県・奈良田温泉/白根館の若い兄弟、福島県・新野地温泉/相模屋さん、高湯温泉/吾妻屋さん、などいつもの顔ぶれとしばしご挨拶。皆一様に私を見ては「太ったね、最初、誰かわからなかったよ」との、軽いジャブを頂戴しました(^^;)。

 マイクロバスが田沢湖畔に近づくと外国人のバックバッカーが散歩している姿をみつけました。なるほど、ここはそういうところなのですね。研修施設に到着すると、さっそく研修会のはじまりはじまり。野口さんからは「秘湯の会に望むもの」という演題で、まずは東京オリンピック以降の日本の温泉事情・トレンドの変遷史を自らの視点がお話くださいました。湯布院、黒川などの成長経緯、そして現時点でのトレンドとしましては「高級和風温泉・露天風呂付客室がバブル以降ふえてきた」「もともとは九州の雅叙園に始まった民芸調・古民家移築系の宿屋がふえた」など。で、秘湯の会に望むもの。○宿の裏手が整理整頓されていないところが多い。宿の敷地内は全て絵です、自ら綺麗にしてください。○帳場にネクタイしめた男はいらない。ホテルではないのだから、スマートさよりも情感を大切に。○遠方からのお客様ばかり優先して、地元の人から「あそこは土地の温泉じゃない」などといわれないように。○秘湯の宿は「家業」であって「事業」ではない、とのこと。なかなかいいこと言うじゃん。
 講演会のあとは、親の世代、子の世代でパネルディスカッション。そのあと1時間、松花堂弁当にて簡単な夕食。アルコールは禁止(*^_^*)。食後は分科会形式でそれぞれの宿屋のあれやこれやや、将来展望など話し合い発表会。すべて完了して22時からようやく懇親会でした。秋田の地酒ときりたんぽ鍋に、したたか酔い、特に今回は開催が北日本支部ということもあり、秋田県、岩田県、宮城県のメンバーと親交を深めました。鷹の湯、強首温泉/樅峰苑、乳頭温泉/鶴の湯、八幡平/ふけの湯、泥湯/奥山旅館、日景/日景温泉、国見温泉/石塚旅館、元湯夏油、須川高原温泉、温湯温泉佐藤旅館、鳴子温泉/琢e。また、山形からは新高湯/吾妻屋旅館、五色湯宗川旅館、姥湯枡形屋、白布温泉/東屋旅館。
 話すのは、あれこれ苦労話20%、夢40%、猥談漫談40%といったところかな。今回話してて興味をもったのは泥湯の混浴ですね。東北は混浴が多いのですが、とくにここのはかなり大きいらしく行ってみたいなあと思いました。混浴をめぐるいろんなお客様の事件・ドラマも聞かせてもらって面白かったです。秘湯らしい秘湯・・・といっては変ですが、嵐渓荘などはまだまだ人家が近くにあって交通の便も悪くないのでカワイイもんだと思いました。東北近辺の秘湯の会の宿屋さんたちは、生活することすら大変な立地条件のところがホントに多いなあ。
 さて、私は2時半頃にはダウンしました。他のみんなは朝までコースだったようです。朝7時半頃バイキング朝食を済ませて、田沢湖をちょびっと散歩。で、ここで悲しいお知らせが。玉川温泉は1日ちがいで、つまり明日にならないと一般車両の乗り入れ禁止が解除されないのだそうです。がっくりです。しかし、それならばということで乳頭温泉郷にある6つの温泉を全て巡ろうということになりました。おお!あの黒湯へも行けるのか!と心躍りました。9時過ぎにマイクロバスは一路乳頭温泉目指して出発しました。今日は快晴、見事なお天気です。

  まずは蟹場温泉へ。道路はまったく雪がありませんが、沿道にはまだ雪が2メートル以上のこっています。貸切状態で優雅に滑るスキーヤー、国民休暇村乳頭スキー場を右手にみながら、マイクロバスは登り道をひたすら進みます。鶴の湯のご主人が以前経営していたという大釜温泉も過ぎ、蟹場に到着。みんなでぞろぞろ館内見学、露天までは雪の回廊をしばらく歩きました。おばあちゃとおじいちゃんが仲良く入浴してました。源泉がコポコポ湧いてていい感じです。
 ここは露天も開放感があってよいのですが、まるで訪れる人を引き込むような魅力の内湯(木風呂)も素敵でした。床も天井も壁も浴槽も図太い板張りで、大きな平岩がデンと窓際にひかえています。そこに陽光が射し、湯面からあがる湯煙がひたすら静かにたなびいています。いやあ、ここは入浴したかった。時間の関係で無理。残念。
 蟹場の次は孫六温泉へ。ここも鄙びた風情たっぷりです。
「清流と深山に抱かれた人情の宿」と大きく書かれた看板も実にこの風景にマッチしています。風呂にはたぶん連泊のお客様たちが一杯いたので、よくみれませんでした。女性もバスタオルをまいて朗らかに混浴です。いいなあ、この感じ。恥ずかしいとか、そういうレベルではない世界。さて、私は孫六温泉の奥にある黒湯めざして先をいそぎました。雪解け水がしゃんしゃんと流れる川を素朴な橋で渡ると、黒湯がみえてきました。
 茅葺き屋根の木造家屋や源泉畑が間近になって、ふと見上げると、どうやらまだ今年は営業開始してないようです。男の人たちが冬囲い外しと除雪に一生懸命でした。冬囲いは板をそのまま建物に釘で打ちつける方式!隙間無く窓という窓がふさがれてます。なかなかの手間だなあ、大変だなあと感慨深くなりました。源泉はドウドウと流れだし、歩道に小川のように流れ出しています。すばらしい。自家発施設も運転を開始していてディーゼルエンジンが唸りをあげていました。人気があるのがよくわかりました。儲け主義の観光旅館ではなく、ここは静かに湯と過ごす本当の「温泉宿」なのですね。乳頭温泉郷の宿はすべてそうでした。嵐渓荘が秘湯を名乗るのはどういうもんなんだろう・・・と、真剣に考えました。今後の・・・10年先以降の課題ですね。黒湯は4月26日から営業開始だそうです。
 さて、もういちどバスに乗り道をもどって今度は大釜温泉に。もともとここは鶴の湯さんが大家さんから借りて経営していた温泉です。お客様の心中事件に巻き込まれる形で建物が全焼。その後、全国からのお客様からカンパが集まり、小学校を移築して復活。しかし、しばらくして大家に明け渡すことに・・・という歴史があったのだそうです。そして、ちょうどその時、鶴の湯を長年守ってきた羽川さんという偉大な方が、今の鶴の湯のご主人に鶴の湯の管理を無償にちかい形で譲り渡したのだそうです。鶴の湯の息子さん(現:鶴の湯別館/山の宿ご主人)は小学校4年までここで過ごしたので、懐かしいといってました。今は新しいオーナーのもと新風呂工事などもしていました。帳場には「職員室」の看板がありました。分校の建物としての名残を残していました。
 次は最近話題の「妙の湯」へ。民芸調でまとめた館内演出は女性客好みの造りでした。お風呂は脱衣室で服を脱いでから、迷路のような回廊で露天やシャワー室、混浴、家族風呂などがつながっている面白い造りです。現代風のかおりがしました。こぢんまり瀟洒系ですので、最近人気というのもうなずけました。秘湯もいいけど、ある程度の設備は必要という方にはオススメの宿と感じました。

 

 


 さてさて、そして念願の鶴の湯へ!まずは別館の山の宿さんを見学。水芭蕉とブナ林、電線などの人工的なものはいっさいない景観。すばらしい。ここは、客室の設備も最低限のものは揃っていて各室バス付きでした。客室の風呂は温泉ではないようですが、子供連れのケースを考えるとここに泊まって(予約がとれればの話ですが!)、鶴の湯や周りの宿の温泉を立ち寄り入浴するというのがベストかもしれません。ちなみに鶴の湯本館までは歩いて20分。冬の間は夜も送迎があるようです。もちろん、貸切風呂もあるし、素敵な内湯も男女別にあります。広い露天に入りたいときは本館へどうぞということのようです。
 またバスに乗り、とうとう鶴の湯本館へ到着!何度も雑誌やインターネットで見てはいましたが、本物は・・・やはり!いい宿だ♪
 本陣長屋の風情や売店前の清水で冷やされたジュース、せせらぎの音がここちよい小川と水車。全てが絵になっています。まだ残雪で緑は芽生えていませんでしたが、後ろに迫る山にはブナやミズナラが生い茂り、新緑の素晴らしさが想像できました。ちょうどお昼時ということもあり、帳場奥の広間で会食となりました。山菜と地鮎の塩焼き、そして名物の山芋汁。うまいうまい♪自分の宿で毎日食べてるだろ!と言われてしまいそうですが、やはりこういう処にはこういう素朴な料理が一番あうなあ。テレビもない囲炉裏のきってある部屋で、こんな夕食と地酒で酩酊できたらどれだけ幸せだろ・・・。ここ、やっぱりいいですね。不便を楽しみに全国からやってくる人が後を絶たないのもよくわかります。食事のあとは、待望の乳白色の露天風呂へといそぎました。今年から、日帰り入浴を10時〜15時に制限したのだそうです。あまりにも凄い数の入浴者が訪れるための対策だったそうなのですが、制限するかどうかは非常に悩んだそうです。鶴の湯の露天は全国的に有名になりすぎて、乳頭温泉=鶴の湯の露天風呂という図式ができあがっており、他の宿屋に泊まるのも、ここの温泉に入るためというケースもざらだとか。となると入浴制限はじぶんのとこの問題だけではなくなってしまう。悩みに悩み、関係各位に相談しての英断だったようです。鶴の湯のご主人が話す言葉を聞いていると、常に乳頭温泉郷などの周りの発展を真剣に考えていることがよくわかりました。金儲けが根本にあるような人間では、こういう宿屋は存続させていけないのだろうなと痛感しました。秘湯を守る会の「守る」の意味を深く感じさせてくれるご主人であります。
 露天風呂につかりました。乳白色の湯は口にすると酸っぱいです。中央の大岩に寄りかかると尻のあたりから熱い源泉がわき上がってくるのを感じました。今日は晴天、真っ青な空のもと、けっこう歩いた午前中のことを思い出しながら湯につかる。ああ、最高・・・。適度にぬる湯ですが、汗がじわじわでてきます。30分くらいつかりました。上がり湯などなくて、清水がながれてくるパイプがあるだけ。さすがに冷たいので、ザバーっとかけることはできませんでしたので、身体のお湯はタオルで拭いて、顔だけその冷たい水で洗いました。爽快です。
 湯からあがると向こうから野口さんがやってきました。ねじりタオルを頭にまいて、まさに番頭さんの風情です。そもそもこの人がブルーガイド日本で、ここを紹介したのがブレイクのきっかけだったとか。でも、ここはブームが去っても存続しつづける湯宿と感じました。もちろん、ご主人や息子さんたちの健気でストイックで冒険的な挑戦と努力があってのものですが。
 乳白色の温泉ということでいえば、新野地温泉の相模屋さんの風呂もすばらしかったですし、あらためて秘湯の会の宿屋さんを思い浮かべれば泉質自慢の宿屋さんはたくさんあります。また、秘湯の風情という点でも、不便な立地ですばらしい景観を守る宿屋さんは秘湯の会にたくさんあります。古くて風情のある建物を大切にしている宿屋さんも多いです。しかしながら、なぜ鶴の湯さんだけが、これほどまでに有名になったのか。その辺を知りたかったのが、正直なところだったのですが、結論はでませんでした。「天命」というような言葉が近いのかもしれません。宿屋というよりも聖地のような気配すらしました。ちょっと言い過ぎかもしれませんし、訪れるのはごく普通の人たちばかりです。また売店には有名人が訪れたときの記念写真が飾ってあったりして、俗っぽい面もたしかにあります。でも、なんなんでしょうね。私はこうして宿にもどり、旅行記をまとめながら早速またあそこへ行ってみたい気持ちで一杯です。乳頭温泉郷とはそういう場所なのかもしれませんね。特に鶴の湯は日本の財産であるといってもいいように思いました。大絶賛にて旅行記を終えます。